学術情報
噛むことに関する学術情報(ヒト試験結果)をご紹介します。
2022年
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Association between dry mouth and physical frailty among community-dwelling older adults in Japan: The Otassha Study(日本の地域在住高齢者におけるドライマウスと身体的 虚弱との関連:お達者研究)
Yuki Ohara et al. Gerodontology. 39(1): 41-48 (2022).
要約:日本の地域在住の高齢者における身体的虚弱と口渇との関係を調べた。5項目からなる口腔乾燥症の指標であるSXIスコアは、身体的虚弱状態と相関がみられることがわかった。安静時の唾液の量と身体的虚弱の重症度には相関はみられなかった。
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Denture wearing is associated with nutritional status among older adults requiring long-term care: A cross-sectional study(入れ歯の装着は、長期ケアを必要とする高齢者の栄養状態と関連する:横断研究)
Ayami Meguro et al. J Dent Sci. 17(1): 500-506 (2022).
要約:義歯の使用、唇の閉鎖能力、および日常生活動作は、長期ケアを必要とする高齢者の栄養失調と有意に関連していることが分かった。歯の喪失時には義歯を装着し、口腔機能を維持することが栄養状態改善に有効であることが示唆された。
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Relationship between weight loss and regular dental management of older adults residing in long-term care facilities: a 1-year multicenter longitudinal study(長期ケア施設に居住する高齢者の体重減少と定期的な歯科医療との関係:1年間の多施設縦断研究)
Yusuke Sunakawa et al. Eur Geriatr Med. 13(1): 221-231 (2022)
要約:定期的な口腔衛生管理(RDM)と介護施設での高齢者の体重減少との関連を調べた。RDMの欠如、認知機能低下、肺炎の病歴は、体重減少と有意に関連していることが明らかとなった。通常の食事をとっている高齢者の早期介護中にRDMを組み込むことで、体重減少を抑えることができると考えられる。
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Features of Masticatory Behaviors in Older Adults with Oral Hypofunction: A Cross-Sectional Study(口腔機能低下を伴う高齢者の咀嚼行動の特徴:横断的研究)
Chikako Hatayama et al. J. Clin. Med. 11: 5902 (2022).
要約:98 人の地域在住の自立した高齢者に対して口腔機能低下に関連する7つの口腔機能評価と、おにぎりを食べたときの咀嚼行動を調べた。口腔機能低下症の高齢者は、器用さの低下により咀嚼速度が遅くなることがわかった。また、口腔機能や咀嚼機能が低下しても、咀嚼回数の代償的な増加は観察されなかった。
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Effect of an Oral Frailty Measures Program on Community-Dwelling Elderly People: A Cluster-Randomized Controlled Trial(地域在住の高齢者に対する口腔フレイル対策プログラムの効果:クラスター無作為対照試験)
Maki Shirobe et al. Gerontology. 68(4): 377-386 (2022).
要約:高齢者のために、歯科医と歯科衛生士によって新しく開発されたオーラルフレイル対策プログラムの効果を検証した。プログラムには、予備的な口腔訓練、開口訓練、舌圧訓練、発音訓練、および咀嚼訓練が含まれていた。舌圧、発音能力に関して、介入群で有意な改善が観察された。この対策プログラムにより、オーラルフレイルが効果的に緩和されることが示唆された。
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Associations between self-reported masticatory dysfunction and frailty: A systematic review and meta-analysis(自己報告された咀嚼機能障害とフレイルとの関連:系統的レビューとメタ分析)
Gotaro Kojima et al. PLoS One. 17(9): e0273812 (2022).
要約:口腔の健康は、体全体の健康の重要な要素であり、生活の質に大きな影響を及ぼすといわれている。285の研究報告から選択された5つの研究(合計7425人、4つの横断的研究)を用いてメタ解析を行った。その結果、咀嚼機能障害を有する高齢者は、そうでない人より虚弱である可能性が高いという横断的な結果が示された。
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Associations of general health conditions with masticatory performance and maximum bite force in older adults: A systematic review of cross-sectional studies(高齢者における一般的な健康状態と咀嚼能力および最大咬合力との関連:横断的研究の系統的レビュー)
Yanpin Fan et al. J Dent. 123: 104186 (2022).
要約:一般的な健康状態と、高齢者の咀嚼能力との関連性について、5133 の研究報告から選択された39 の研究を用いてレビューを行った。咀嚼能力は、脳卒中、サルコペニア、筋萎縮性側索硬化症、慢性閉塞性肺疾患、消化不良、嚥下障害、食欲不振、および頸動脈アテローム性動脈硬化症との間に有意な負の関連が見られた。最大咬合力はサルコペニアとの間に有意な負の関連が見られた。
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The Effects of Chewing Gum on Reducing Anxiety and Stress: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials(チューインガムが不安とストレスを軽減する効果:ランダム化比較試験のメタ分析)
Jing Luo et al. J Healthc Eng. 2022: 8606693 (2022).
要約:不安やストレスを軽減する手段としてガムを噛むことが有効かどうか、近年の文献のメタ解析により評価を行った。現在のエビデンスに基づくと、不安やストレスに対して、ガムを噛むことは、安価で、受け入れやすく、安全で効果的な方法と考えられる。ただし、結論を確認するには、さらに無作為化試験を実施する必要がある。
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Oral frailty as a risk factor for mild cognitive impairment in community-dwelling older adults: Kashiwa study(地域在住の高齢者における軽度認知障害の危険因子としてのオーラルフレイル:柏研究)
Miyuki Nagatani et al. Exp Gerontol. 172: 112075 (2022).
要約:オーラルフレイルが、地域在住の高齢者に新たに発症した軽度認知障害 (MCI) と関連しているかどうかを調べた。除外基準に適合しなかった1,410人の参加者のうち19%がフォローアップ期間中にMCIを発症し、オーラルフレイルグループは、そのハザード比が有意に高かった。この結果は、オーラルフレイルチェックにより、地域在住高齢者のMCI新規発症リスクを予測できることを示唆している。
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Oral health-related multiple outcomes of holistic health in elderly individuals: An umbrella review of systematic reviews and meta-analyses(高齢者の全体的な健康に口腔の健康が関連する複数の結果:系統的レビューとメタ分析の包括的なレビュー)
Fan Liu et al. Front Public Health. 10: 1021104 (2022).
要約:高齢者の全体的な健康に対する口腔の健康の影響の包括的なレビューを実施した。高齢者の身体的、精神的、社会的健康に影響を与える7つの重要な因子として、呼吸器疾患、栄養失調、加齢に伴う口腔の変化、虚弱、認知障害、うつ病、生活の質の低下が特定された。これらの結果は、高齢者のQOLの改善に向け口腔ケアの重要性を示すものである。より具体的な関連性の検証のためには、更なる研究が必要である。
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Screening for a Decreased Masticatory Function by a Color-changeable Chewing Gum Test in Patients with Metabolic Disease(代謝性疾患患者における色変わりチューインガム検査による咀嚼機能低下のスクリーニング)
Mitsuyoshi Takahara et al. Intern Med. 61: 781-787 (2022).
要約:生活習慣病患者1000名の咀嚼機能をグミゼリーテスト及び色変わりガムにより調べた。グミゼリーテストにより77名が咀嚼機能低下と診断された。グミゼリーテストとの比較により、色変わりガムの最適カットオフ値はカラースケールで5.5(5.0-6.5)、色彩色差計でΔE 37.7(35.5-35.8)であることがわかった。色変わりガムは生活習慣病患者の咀嚼機能低下の簡便なスクリーニング法として有効と考えられる。
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Eating habit patterns may predict maximum occlusal force: A preliminary study(食習慣パターンは最大咬合力を予測する可能性がある: 予備調査)
Masahiro Okada et al. PLoS ONE. 17(2): e0263647 (2022).
要約:健康な女子大学生53名に対してデンタルプレスケールによる最大咬合力の測定および食習慣アンケート調査を行った。毎朝朝食を食べる、おなかいっぱい食べる、ストレス解消のために食べるといった項目で最大咬合力と相関が認められた。食習慣と最大咬合力との間に有意な関連があることが示された。
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噛み合わせおよび歯並びの主観的な良不良が等速性肘関節屈曲伸展筋力に及ぼす影響
岡山裕美ら. 理学療法科学. 37 (1): 23-26 (2022).
要約:噛み合わせおよび歯並びの主観的な良不良が等速性肘関節筋力に及ぼす影響について検討した。口腔内のアンケート結果をもとに群分けし、角速度60deg/sec での屈伸運動において,等速性肘関節屈伸のピークトルクを測定した。その結果、噛み合わせの主観的な良不良が肘関節の筋力発揮に影響を与えることが明らかとなった。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/37/1/37_23/_article/-char/ja/
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舌口唇機能訓練が高齢者の認知機能および舌筋力と口唇閉鎖力に及ぼす影響
長棹由起ら. 老年歯科医学. 37 (1): 3-12 (2022).
要約:高齢者に対して、継続的な舌口唇機能訓練の効果を調べた。試験群の口腔湿潤度は,訓練前に比べ21カ月後、舌筋力と口唇閉鎖力は12カ月後以降に有意に上昇した。対照群との比較では、認知機能(MMSE)は18カ月以降、舌口唇運動機能は9カ月後と21カ月後に有意差が認められた。舌筋力の変化率は9カ月後以降、口唇閉鎖力は21カ月後に対照群より高かった。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsg/37/1/37_3/_article/-char/ja/
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小・中学校時代の食べる速さが20歳時の体格に及ぼす影響
細井菜穂子ら. 日本食育学会誌. 16 (1): 15-28 (2022).
要約:インターネット調査で選んだ20~49歳の男女に対して、小中学生時代の食事速度が、20歳の体格にどのような影響を及ぼすか調査した。その結果、食べるスピードが早いほど20歳時のBMIが高くなることがわかった。また、女性の食べる速さは、小中学生時代の食育教育に影響を受けることが示された。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokuiku/16/1/16_15/_article/-char/ja/
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地域在住高齢者における主観的認知機能低下と口腔機能およびソーシャル・キャピタルとの関連
竹内倫子ら. 老年歯科医学. 37 (2): 64-75 (2022).
要約:地域在住高齢者73名(男性24名、女性49名)を対象に、主観的認知機能低下、世帯、学歴、基本チェックリスト、ソーシャル・キャピタル(SC)、舌圧、オーラルディアドコキネシス(ODK)、現在歯数との関係を調査した。主観的認知機能低下と有意な関連がみられたのは、うつ病の可能性、ODK、SCであった。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsg/37/2/37_64/_article/-char/ja/
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ガム咀嚼による身体的パフォーマンスへの影響ーオープンランダム化クロスオーバー試験
松井美咲ら. 薬理と治療. 50 (6): 1023-1028 (2022).
要約:10分間のガム咀嚼により、重心バランス、握力、垂直跳びなどの運動機能にどのような影響を及ぼすか検討を行った。ガム咀嚼群は、無咀嚼群と比較して、握力及び静的バランスの維持向上がみられた。
http://www.pieronline.jp/content/article/0386-3603/50060/1023
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ガム長期摂取による身体的パフォーマンスへの影響ーオープンランダム化平衡群間比較試験
松井美咲ら. 薬理と治療. 50 (9): 1591-1596 (2022).
要約:一定の硬さが持続するガムを用いた継続的な咀嚼トレーニングを行い、握力、重心バランスおよび咬合力などにどのような影響を及ぼすか検討を行った。咀嚼トレーニング実施群は無実施群と比較して静的バランスが向上することが明らかとなった。
http://www.pieronline.jp/content/article/0386-3603/50090/1591
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ガム継続摂取による免疫および自律神経,ストレスへの影響ーオープンランダム化平衡群間比較試験ー
菅野範ら. 薬理と治療. 50 (6): 1049-1054 (2022).
要約:50名の被験者によって、ガムの2週間継続摂取による、ストレス、自立神経、免疫に対する影響を調べた。ガムの継続咀嚼が、ネガティブ、ポジティブ両方の気分に作用すること、副交感神経活動が高まることが示された。免疫指標に関しては、唾液中のS-IgA濃度の増加が確認された。ガム咀嚼によるストレス改善効果により、口腔免疫機能が改善された可能性が示唆された。
http://www.pieronline.jp/content/article/0386-3603/50060/1049
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高齢者のお口のエクササイズ実施による口腔機能への影響
菅野範ら. 薬理と治療. 50 (9): 1597-1603 (2022).
要約:高齢者を対象とした口腔トレーニングプログラム「お口のエクササイズ」の4週間継続実施による口腔機能への影響を検討した。介入前後の群間比較により、客観的咀嚼能力、主観的咀嚼能力並びに、最大舌圧に改善効果が認められた。4週間のお口のエクササイズ実施は高齢男女の咀嚼能力や舌運動機能を含む口腔機能を改善することが示唆された。
http://www.pieronline.jp/content/article/0386-3603/50090/1597
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ガム咀嚼による頭皮血流への影響ーオープンランダム化クロスオーバー比較試験
松井美咲ら. 薬理と治療. 50 (9): 1605-1609 (2022).
要約:ガム咀嚼により脳血流や内頚動脈と外頚動脈を含む総頚動脈の血流が増加することが知られている。ガム咀嚼による頭皮血流への影響をレーザースペックル法で評価した結果、咀嚼中の頭皮血流の増加が認められた。
http://www.pieronline.jp/content/article/0386-3603/50090/1605
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舌口唇機能訓練が高齢者の認知機能および舌筋力と口唇閉鎖力に及ぼす影響
長棹由起ら. 老年歯科医学. 37 (1): 3-12 (2022).
要約:高齢者60名を対象として、舌口唇機能訓練が認知機能および舌筋力と口唇閉鎖力に与える効果を調べた。試験群及び対象群の比較では、認知機能(MMSE)は18カ月後以降、舌口唇運動機能は9カ月後と21カ月後に有意差が認められた。舌口唇機能訓練の継続は、舌筋力や口唇閉鎖力の向上、認知機能や発音機能の維持に有効であることが示唆された。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsg/37/1/37_3/_article/-char/ja/
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食後のガム咀嚼がエネルギー消費と基質酸化に与える影響
永山千尋ら. 日本咀嚼学会雑誌. 32 (2): 71-79 (2022).
要約:20~60歳代の男女を対象として、食後のガム咀嚼とタブレット摂取での食後240分間の呼気エネルギー代謝測定を行った。ガム咀嚼はタブレット摂取と比較して、食後の平均エネルギー消費量、食事誘発性体熱産生および糖質酸化量が有意に高値を示した。成人男女において、食後のガム咀嚼は糖質酸化量を増大させることでエネルギー消費量を食後240分間にわたり増大させることが示された。
https://mol.medicalonline.jp/archive/search?jo=dr3masti&ye=2022&vo=32&issue=2